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【実録】「勉強しな なさい」をやめた日。反抗期の子供の心が動いた、たった1つの声かけの変化

「勉強しなさい」が言えなくなった日。反抗期の息子と私の、出口のない戦い

「ねぇ、いつまでスマホ見てるの? そろそろ勉強したら?」

リビングに響く、自分でも嫌になるほどトゲのある声。ソファに寝そべり、画面に目を落としたままの中学2年生の息子は、ピクリとも反応しません。

「聞こえてるの? テスト、もうすぐなんでしょ!」

焦りから、声量が一段と上がります。すると、息子は心底面倒くさそうに顔を上げ、冷え切った声でこう言い放ちました。

「…うるさいな。今やろうと思ってたのに。言われるとやる気なくすんだよ」

ガチャン、と乱暴に自室のドアが閉められる。まただ…。この光景は、ここ数ヶ月、我が家の日常になっていました。

(私の育て方が、間違っていたんだろうか…)

シンと静まり返ったリビングで、一人取り残される私。息子の将来を思って言っているのに、言葉は全く届かない。それどころか、親子の溝は深まるばかり。食卓での会話もなくなり、息子の笑顔を見ることさえ稀になりました。

(もう、どうしたらいいの…?このまま息子との関係が壊れてしまったら…)

良かれと思ってやっていることが、すべて裏目に出る。出口のないトンネルを、たった一人で彷徨っているような絶望感。あの頃の私は、本気でそう思い詰めていました。

私が犯していた、致命的な間違い。良かれと思った声かけの「ワナ」

当時の私は、藁にもすがる思いで、様々な方法を試していました。インターネットで「反抗期 子供 勉強」と検索し、専門家が推奨する方法を片っ端から実践したのです。

  • 褒めて伸ばす作戦: 「少しでも机に向かったら褒める」と聞き、実践。「えらいね!10分も集中できたじゃない!」しかし、息子からは「バカにしてんの?」と冷たい一瞥。
  • ご褒美作戦: 「テストで〇番以内に入ったら、新しいゲーム買ってあげる」と提案。その時だけは少しやる気を見せましたが、テストが終われば元通り。根本的な解決にはなりませんでした。
  • 他人任せ作戦: 「塾に行けばプロが何とかしてくれるはず」と期待して入塾させても、息子の態度は変わらず。「わからないところ、先生に質問してるの?」と聞いても、「別に」と気のない返事。成績も、親子関係も、何一つ好転しませんでした。

(なぜ?どうしてうまくいかないの?)

心の中は焦りと後悔でいっぱいでした。「勉強しなさい」という直接的な言葉がダメなら、あの手この手で誘導しようとする。しかし、その全てが、息子の目には「親の思い通りにコントロールしようとする操作」としか映っていなかったのです。

壊れたラジオを叩き続けるような、不毛な毎日

ある日、カウンセラーの友人と話す機会がありました。私がこれまでの経緯を涙ながらに話すと、彼女は静かにこう言ったのです。

「それって、音の出ないラジオを、ひたすら叩いて『鳴れ!』って言ってるのと同じじゃないかな」

衝撃でした。

彼女は続けました。「ラジオが鳴らないのは、叩き方が悪いからじゃない。もしかしたら、中の電池が切れていたり、配線が一本切れていたりするだけかもしれない。外からガンガン叩いても、もっと壊れるだけだよ。本当にすべきなのは、ラジオの裏蓋をそっと開けて、何が起きているのかを静かに観察することじゃない?」

ハッとしました。私はずっと、息子の「勉強しない」という”音が出ない”現象だけを見て、外から叩き続けていたのです。息子の心の中、その裏蓋を開けてみようとは一度もしていませんでした。

(私が向き合うべきは、息子じゃなかった。息子への『声かけ』をする、私自身だったんだ…)

その日から、私の「戦い」は終わりを告げ、静かな「観察」が始まりました。

「勉強しなさい」の呪いを解く、たった3つのステップ

私が最初にしたことは、たった一つ。「勉強しなさい」という言葉を、自分の中で【禁句】に設定したことです。口から出そうになるのを、ぐっとこらえる。それは想像以上に難しいことでしたが、ここから全てが始まりました。

ステップ1:『監視者』から『観察者』へ変わる(1週間)

まず、息子が何に時間を使い、何に笑顔になり、何にイライラしているのかを、ただ静かに観察することから始めました。口出しは一切しません。

  • 息子の世界の発見: 息子が夢中になっているスマホゲームは、実は世界中のプレイヤーと協力する戦略性の高いものだと知りました。彼がイヤホンで聴いている音楽の歌詞に、彼の今の気持ちが隠されているかもしれないと思いました。
  • 小さな変化の発見: 食事中、私が何も言わずにいると、彼の方からポツリと学校の友達の話をしてくれる日がありました。それは、本当に些細な変化でしたが、私にとっては大きな一歩でした。

ステップ2:『命令』を『質問』と『共感』に変える(1ヶ月)

次に、声かけの仕方そのものを180度変えました。主語を「あなた」から「私」に変えるI(アイ)メッセージと、答えを本人に委ねる質問を意識したのです。

これまでのNG声かけ新しいOK声かけ
「勉強しなさい!」「今日の夜って、何か勉強する予定あるの?」
「いつまでゲームやってるの!」「そのゲーム、面白そうだね。どんなところが魅力なの?」
「テスト前なのにのんきだね」「テストが近いと、私もなんだか落ち着かなくてそわそわしちゃうな」
「何でできないの?」「どこでつまづいてる感じ?一緒に考えてみようか」

最初は戸惑っていた息子も、尋問ではなく純粋な興味からくる質問だとわかると、少しずつ自分の状況を話してくれるようになりました。「数学のこの図形問題がマジで意味不明」と彼が言った時、私は「そうなんだ、図形か…お母さんも苦手だったな」と共感するだけで、解決策は提示しませんでした。ただ、彼の「困っている」という気持ちを受け止めたのです。

ステップ3:『管理者』から『応援者』になる(3ヶ月〜)

最後のステップは、彼の人生の主役は彼自身であると認め、親はあくまでサポーターなのだと覚悟を決めることです。

  • 小さな決定を任せる: 「夕飯のあとすぐ勉強する?それともお風呂のあとにする?」など、勉強のタイミングや計画の主導権を彼に渡しました。
  • 勉強以外の価値を認める: 部活を頑張っていること、友達と良好な関係を築いていること、家の手伝いをしてくれたこと。勉強という一つの物差しだけで彼を評価するのをやめ、彼の存在そのものを承認する言葉を伝え続けました。

訪れた静かな変化。息子が机に向かった、ある夜のこと

声かけを変えて3ヶ月ほど経った頃。その変化は、本当に静かに訪れました。

夕食後、いつものようにスマホを見ていた息子が、ふと顔を上げて私に言ったのです。

「なあ、来週の社会のテスト、範囲が広くてさ。ちょっとヤバいかも」

以前の私なら「だから言ったでしょ!」と責めていたでしょう。でも、その時の私は、ただ「そっか、それは大変だね」とだけ返しました。

しばらくの沈黙の後、息子は「ちょっと部屋でやってくるわ」と言って、自室に向かいました。ドアの閉まる音は、もう乱暴ではありませんでした。

その夜、私は息子の部屋のドアをそっと開け、温かいお茶と少しのお菓子を置きました。彼は黙ってうなずき、また問題集に目を落としました。特別な会話があったわけではありません。でも、そこには確かに、失いかけていた親子の信頼関係が存在していました。

劇的に成績が上がったわけではありません。でも、彼は自分の課題と向き合い、自分の意志で机に向かうようになったのです。「勉強しなさい」と言い続けていた頃には、決して見られなかった光景でした。

FAQ:反抗期の子供への声かけでよくある質問

Q1. 全く勉強しない時は、どうやってきっかけを作ればいいですか?

A1. まずは「勉強」という言葉から離れてみましょう。子供が興味を持っていること(ゲーム、アニメ、スポーツなど)に関連する本やドキュメンタリー番組を一緒に見るのがおすすめです。「このキャラクターの国の歴史って面白いね」「このゲームを作るプログラミングってどうなってるんだろうね」と、知的好奇心を刺激することから始めてみてください。勉強へのハードルが自然と下がります。

Q2. 夫(妻)との教育方針が合わず、片方が「勉強しなさい」と言ってしまいます。

A2. これは非常に重要な問題です。まず、ご夫婦二人だけで、感情的にならずに話し合う時間を作りましょう。この記事でお伝えしたような「声かけを変えることの重要性」や、「子供の自主性を尊重する」というゴールを共有することが大切です。「子供を追い詰める」のではなく「子供が安心して相談できる家庭環境を作る」という共通の目標を設定できると、足並みが揃いやすくなります。

Q3. 声かけを変えても、すぐに効果が出ないのですが…

A3. 焦らないでください。これまで築かれてしまった関係性を修復するには、時間がかかります。子供は親の変化を「また何か企んでいるのでは?」と試しているのかもしれません。大切なのは、親が一貫した態度で、辛抱強く関わり続けることです。3ヶ月は一つの目安と考え、結果を急がず、子供の心を尊重する姿勢を続けてみてください。その誠意は、必ず伝わります。

まとめ:親の言葉が変われば、子供の未来が変わる

かつての私のように、反抗期の子供との関係に悩み、心を痛めている方は少なくないでしょう。「勉強しなさい」という言葉は、子供の将来を願う親の愛情から出る言葉です。しかし、その愛情が「支配」という形で伝わってしまえば、子供の心は固く閉ざされてしまいます。

私と息子の関係を変えたのは、特別なテクニックではありませんでした。

  • 「勉強しなさい」という呪いの言葉をやめること
  • 子供をコントロールしようとするのではなく、一人の人間として尊重すること
  • 親が安心できる「安全基地」になること

ただ、それだけでした。

もしあなたが今、出口のないトンネルの中にいると感じているなら、どうか一度立ち止まってみてください。そして、子供にかける言葉を、ほんの少しだけ変えてみてください。

それは、壊れたラジオを叩くのをやめ、そっと裏蓋を開けるような、静かで、しかし確実な一歩です。その先には、あなたが諦めかけていた、子供との穏やかで温かい未来が待っているはずです。