【小6算数の壁】応用問題で思考停止する息子に絶望した私が、たどり着いた最後の家庭学習法
「また、白紙…?」
リビングのテーブルに広げられた、算数の問題集。息子の解答欄は、まるで彼の心を映すかのように真っ白でした。時計の秒針の音だけが、やけに大きく部屋に響きます。
小学6年生の息子。計算ドリルなら、クラスでも速い方。学校のテストも、基礎問題ならほぼ満点。でも、文章題や図形問題になった途端、まるで思考がフリーズしたかのように、鉛筆がピタリと止まってしまうのです。
「この問題、どこがわからないの?」
できるだけ優しい声で尋ねたつもりでした。でも、返ってくるのは「…わからない」という、か細い声だけ。その目には、自信のなさと、私に対する申し訳なさのような色が浮かんでいて、胸が締め付けられました。
『なぜ私だけがこんな思いを…』
中学受験は考えていない。でも、このままでは中学の数学で確実につまずく。それは火を見るより明らかでした。焦る気持ちから、有名な問題集を買い与え、塾の季節講習にも通わせました。でも、結果は同じ。増えていくのは、手つかずの問題集の山と、親子の間の重苦しい沈黙だけ。
「もうダメかもしれない…」
そんな絶望感が心を支配しかけた夜、私は一つの事実に気づいたのです。私たちがやっていたのは、水漏れしているバケツに、必死で水を注ぎ続けるようなものだったのだと。
この記事は、かつての私と同じように、お子さんの算数の応用問題に悩み、先の見えないトンネルの中にいるように感じているあなたのために書きました。量をこなすだけの学習から抜け出し、本当の意味で子どもの「考える力」を育てるために、我が家がたどった道のりをお伝えします。
なぜ、問題集を増やしても応用力は育たないのか?
「応用問題が解けないなら、難しい問題に慣れさせればいい」
ほとんどの親が、そう考えてしまいます。私もそうでした。しかし、これは大きな間違いだったのです。それはまるで、穴の開いたバケツに、さらに勢いよく水を注ぎ込むような行為でした。
水漏れバケツの正体:思考プロセスの欠落
想像してみてください。私たちの知識や計算力は「水」です。そして、その水を溜めておくのが「バケツ」。応用問題が解けない子のバケツには、目には見えない「穴」がいくつも開いています。
- 問題文を読み解く穴: 書かれている情報を正しく理解できない
- 情報を整理する穴: 何が問われ、どの情報を使えばいいか分からない
- 立式への変換の穴: 問題の状況を数式に置き換えられない
- 図形をイメージする穴: 頭の中で図形を動かしたり、補助線を引いたりできない
いくら大量の問題(水)を注ぎ込んでも、これらの穴が開いている限り、知識はどんどん漏れ出ていくだけ。子どもは「やってもやってもできるようにならない」という無力感に苛まれ、算数そのものが嫌いになってしまいます。
「解き方の暗記」という罠
もう一つの罠は、「解き方の暗記」に頼ってしまうことです。基礎的な問題は、パターンを暗記すれば解けてしまいます。しかし、少しひねられた応用問題になると、どのパターンを使えばいいのか分からなくなり、途端に手が出なくなるのです。
これは、レシピを見ないと料理が作れない状態と似ています。本当に必要なのは、冷蔵庫にある食材(知識)を見て、自分でメニュー(解法)を考え出せる創造力。つまり、「思考のプロセス」そのものを鍛えることだったのです。
親の焦りが子どもを追い詰める
「早く答えを出しなさい」「どうしてこんな問題がわからないの?」
無意識のうちに、こんな言葉をかけていませんか? 親の焦りは子どもに伝染し、「考えよう」とする意欲を奪います。「間違えたら怒られる」という恐怖が、子どもの思考を停止させてしまうのです。
まず私たちがすべきは、水を注ぐ手を止め、バケツのどこに穴が開いているのかを、子どもと一緒にじっくりと見つけることでした。
思考の壁を壊す!家庭でできる3つのステップ
絶望の淵から、私たちは学習方針を180度転換しました。「量をこなす」から「質を深める」へ。答えを出すことよりも、「なぜそう考えたのか?」というプロセスを何よりも大切にする。そのために、我が家で実践した3つのステップをご紹介します。
ステップ1:思考の「見える化」を徹底する
応用問題が苦手な子の頭の中は、情報がごちゃごちゃに絡まった毛糸玉のような状態です。最初のステップは、その毛糸を一本一本ときほぐし、目に見える形に整理してあげることでした。
- 図や絵を描く習慣をつける: 文章題を読んだら、いきなり式を立てさせず、まずは問題の状況を絵や図に描かせます。登場人物、物の数、関係性などを視覚的に捉えることで、何をすべきかが見えてきます。ヘタでも構いません。「描く」という行為自体が、頭の中を整理する助けになります。
- 情報を線分図や表にまとめる: 特に「速さ」「割合」「売買損益」などの問題では、線分図や面積図、表が絶大な威力を発揮します。これは単なるテクニックではなく、複雑な関係性をシンプルにモデル化する「抽象化」の訓練です。
- 大事な部分に線を引く: 問題文を読みながら、「求められていることは何か」「条件は何か」を色分けして線を引くだせるだけでも、情報の整理が格段に進みます。
この「見える化」の目的は、子ども自身が「自分はどこでつまずいているのか」を客観的に認識すること(メタ認知)です。親は「ここを図にしてみようか」と、あくまでサポーターに徹することが大切です。最初は面倒くさがっていた息子も、図を描くことで正解にたどり着く経験を重ねるうち、自らペンを動かすようになりました。
ステップ2:「なぜ?」を問う魔法の対話
次に意識したのは、親子間の「対話」を変えることでした。これまでは「正解か不正解か」という結果ばかりに注目していましたが、それを「思考のプロセス」を深掘りする対話へと切り替えたのです。
- 答えを教えない: 子どもが「わからない」と言っても、すぐに答えやヒントを与えません。代わりに、「どこまでわかって、どこからわからないの?」「この問題文を、自分の言葉で説明してみてくれる?」と問いかけ、思考の現在地を確認します。
- 「どうしてその式を立てたの?」と聞く: たとえ間違った式を立てていても、頭ごなしに否定しません。「なるほど、面白い考え方だね。どうしてこの式で解けると思ったの?」と、その考えに至った理由を尋ねます。子どもは自分の思考を言語化することで、間違いに自ら気づくことができます。
- 一緒に考えるスタンスを見せる: 「うーん、お父さんも難しいな。一緒に考えてみようか」と、親も同じ目線で問題に取り組みます。親が完璧でなくてもいいのです。一緒に悩み、試行錯誤する姿を見せることが、子どもの「考えてもいいんだ」という安心感につながります。
この対話で大切なのは、子どもを評価するのではなく、子どもの思考そのものに興味を持つことです。「なぜ?」という問いかけは、子どもの思考を深く、広く、多角的にする最高のトレーニングになりました。
ステップ3:良質な教材を「使いこなす」
学習方針を転換し、いよいよ教材選びです。しかし、以前のように闇雲に買い与えることはしませんでした。私たちの目的は、思考力を鍛えること。その基準で厳選し、そして何より「使いこなす」ことを徹底しました。
- 量より質で選ぶ: 解説が丁寧で、思考のプロセスを重視している問題集を1冊だけ選びました。特に、別解が載っているものや、図や表を多用して解説しているものがおすすめです。
- 1日1問、じっくり取り組む: 毎日何ページも進める必要はありません。1日1問、あるいは2日に1問でもいいので、その問題を「完璧に理解する」ことを目標にします。図を描き、式を立て、答えを出し、そして「なぜその解き方で解けるのか」を自分の言葉で説明できるレベルを目指します。
- 同じ問題を何度も解く: 一度解けて終わり、ではありません。1週間後、1ヶ月後にもう一度解かせてみます。思考のプロセスが定着しているかを確認するためです。スラスラ解けるようになっていれば、その問題は完全に「自分のもの」になった証拠です。
たくさんの問題集を中途半端にやるよりも、良質な1冊をボロボロになるまで使い倒す方が、はるかに思考力は身につきます。息子が1冊の問題集をやり遂げた時、彼の表情には、これまで見たことのないような達成感と自信が満ち溢れていました。
思考力を鍛えるためのおすすめ教材・ツール比較
ここでは、我が家で実際に試したり、専門家から勧められたりした中で、特に「思考力を鍛える」という観点で効果的だった教材をいくつかご紹介します。お子さんのタイプに合わせて選んでみてください。
| 教材名/ツール名 | 特徴 | こんな子におすすめ | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| スーパーエリート問題集 | 図や表を用いた丁寧な解説が秀逸。思考のプロセスを重視した良問が多い。 | じっくり考えるのが好きな子、視覚的に理解するのが得意な子 | 「なぜそうなるのか」が根本から理解できる。 | 問題数が多くないので、演習量をこなしたい場合には不向き。 |
| RISU算数 (タブレット教材) | AIがお子さんのレベルを判定し、最適な問題を出題。つまずきを検知すると解説動画が送られてくる。 | ゲーム感覚で取り組みたい子、自分のペースで進めたい子 | 苦手分野を効率的に克服できる。学習が習慣化しやすい。 | 月額料金がかかる。紙に書く習慣がつきにくい場合も。 |
| シンクシンク (知育アプリ) | パズルや迷路など、思考力を伸ばすことに特化したゲームが100種類以上。1日10分という時間制限も良い。 | 勉強に苦手意識がある子、まずは「考える楽しさ」を知ってほしい子 | 遊び感覚で思考力が鍛えられる。隙間時間に手軽にできる。 | 直接的な算数の問題解決には結びつきにくい。 |
| 予習シリーズ (四谷大塚) | 中学受験の定番だが、解説が非常に丁寧。特に「演習問題集」は思考力を問う良問が揃う。 | 基礎が定着しており、さらにハイレベルな問題に挑戦したい子 | 論理的思考力が体系的に身につく。中学数学への良い橋渡しになる。 | 難易度が高めなので、親のサポートが必須になる場合がある。 |
大切なのは、教材を与えるだけで終わりにしないことです。どの教材を選ぶにせよ、先ほど紹介した「見える化」と「対話」をセットで行うことで、その効果は何倍にもなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 親が算数が苦手でも、教えることはできますか?
A1. はい、全く問題ありません。むしろ、算数が苦手だった親御さんの方が、子どもがどこでつまずくかの気持ちが分かり、良いサポーターになれる場合があります。大切なのは「教える」のではなく「一緒に考える」スタンスです。「お母さんもわからないから、この解説を一緒に読んでみようか」という姿勢が、子どもの安心感につながります。
Q2. なかなか子どものやる気が出ません。どうすればいいですか?
A2. まずはハードルを極限まで下げてみましょう。1日10分、思考力系のアプリで遊ぶだけでも構いません。「勉強」という枠から一旦外して、「考えることって面白い!」という体験をさせてあげることが大切です。また、小さな成功体験をたくさん作ってあげることも重要です。少しでもできたら大げさなくらい褒める。「昨日より図が上手に描けたね!」など、結果だけでなくプロセスを褒めるのがポイントです。
Q3. いつ頃から始めるのが効果的ですか?
A3. 気づいた時が始め時です。もちろん、低学年から思考力を意識した学習ができれば理想ですが、小6からでも決して遅くはありません。中学からの数学は、より抽象的な思考が求められます。小学校のうちに「考える体力」をつけておくことは、非常に大きなアドバンテージになります。焦らず、お子さんのペースに合わせて一歩ずつ進めていきましょう。
まとめ:算数の壁は、子どもの可能性を広げる扉
かつて、息子の真っ白な解答用紙を前に絶望していた私。しかし、今なら分かります。あの壁は、息子が「解き方を暗記する学習」から「自ら考える学習」へと進化するための、大切なサインだったのだと。
量をこなすだけの学習をやめ、
- 思考を「見える化」し、
- 「なぜ?」という対話を重ね、
- 良質な教材をじっくり味わう
この3つのステップを実践したことで、息子の表情は変わりました。応用問題を前にしてもフリーズすることなく、まずは図を描き、あれこれ試行錯誤するようになったのです。もちろん、今でも解けない問題はあります。でも、彼の解答用紙が真っ白であることは、もうありません。そこには、彼が必死で考えた「思考の跡」が、誇らしげに刻まれています。
もしあなたが今、出口の見えないトンネルの中にいるのなら、一度立ち止まってみてください。そして、お子さんの「バケツの穴」はどこにあるのか、じっくりと観察してみてください。
算数の壁は、乗り越えられない障害ではありません。それは、お子さんの思考力を一段階上のステージへと引き上げ、未来の可能性を大きく広げるための「扉」なのです。この記事が、あなたがその扉を開けるための、小さな鍵となれば幸いです。
