「また、この問題…?」
テーブルに広げられたZ会の問題集。小3の息子は、鉛筆を握りしめたまま固まっています。時計の秒針だけがカチカチと、重苦しい沈黙を刻んでいく。
『どうしてできないの!』
喉まで出かかったその言葉を、私は必死に飲み込みました。違う。この子を責めちゃいけない。評判の良いZ会を選んだのは、親である私なのだから。
「良質な教材」。その言葉が、呪いのように私にのしかかっていました。周りのママ友からも「Z会は考える力がつくから良いよね」と聞くたびに、焦りと罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。「うちの子がついていけないのは、能力が足りないから…?」そんな風に思い詰める日々でした。
毎晩の勉強時間は、まるで戦場。私が隣につきっきりでヒントを出し、ほとんど答えを教えるような形で、なんとか課題を終わらせる。息子の目からは自信の光が消え、「どうせ僕には無理だよ」という諦めの言葉が増えていきました。
このままでは、勉強そのものを嫌いになってしまう。
その危機感が、私をようやく突き動かしました。Z会は、素晴らしい教材です。でもそれは、ある程度基礎が固まっていて、自ら応用問題に挑む意欲のある子にとっての「素晴らしい教材」なのかもしれない。
それは例えるなら、料理初心者にいきなりプロ向けのレシピ本を渡すようなもの。どんなに素晴らしいレシピでも、基本的な火加減や食材の切り方を知らなければ、料理は苦痛になるだけ。大切なのは、まず「卵を上手に焼く」というような、小さな成功体験を積み重ねること。
私たちは、一度Z会を休会する決断をしました。そして、教材探しの旅を始めたのです。重視したのは、たった3つ。
1. 基礎の基礎から丁寧に解説してくれること。
2. スモールステップで、一人で「できた!」を実感できること。
3. 子どもが「やりたい」と思える楽しさがあること。
いくつかの教材の資料を取り寄せ、体験教材を試した結果、息子が「これならできそう!」と目を輝かせたタブレット教材に乗り換えました。
変化はすぐに訪れました。
キャラクターの励ましや、正解するごとの効果音。ゲーム感覚で進められるカリキュラムに、息子は夢中になりました。以前はあれほど嫌がっていた学習時間に、自分から進んで向かうようになったのです。
そして、何よりも嬉しかったのは、息子の口から「あ、わかった!」「一人でできたよ!」という言葉を聞けたこと。その時の誇らしげな顔は、一生忘れられません。
もちろん、難しい問題につまずくこともあります。でも、今は「もう一回やってみる!」と前向きに取り組めるようになりました。親子で険悪になっていたあの時間が嘘のように、我が家には穏やかな学習時間が戻ってきたのです。
もし、あなたもかつての私と同じように、「良い教材のはずなのに、うちの子には合わない…」と悩んでいるのなら。どうか、自分やお子さんを責めないでください。教材の乗り換えは、「逃げ」や「失敗」ではありません。それは、お子さんの大切な自信と「学びたい」という気持ちの芽を守るための、最も賢明な「戦略」なのだと、今なら心からそう思えます。
あなたの家庭にも、笑顔の学習時間が訪れることを、心から願っています。
